船の魂を込める船大工の技。瀬戸大橋、与島の船大工


瀬戸大橋の架かる与島(よしま)にいる船大工、辻岡忠治さんに船霊(フナダマ)さんのお話を聞きに行ってきました。フナダマさんとは、古くから日本各地の和船をつくるときに船大工が込める船の魂や守護神のようなもので、多くの漁師さんをはじめとした船乗りの心の支えとなってきました。

地域や船大工さん、漁師さんによって、フナダマさんの中に何をいれているのかや、進水式のときに何回島の周りをまわるなどの習俗が異なります。今回与島で聞いたフナダマさんの特徴をざっくりまとめると、こんなかんじ。

・フナダマさんは女性の神様
・博打好きの神様なのでサイコロを乗せている
・サイコロの向きを示す唄がある「一天地六、表見合わせ、艫(とも)幸せ、櫓櫂ごとごと、中に荷がどっさり」
・フナダマさんを込める時に唱える呪文はさまざま
・紙の人形、12の倍数のお金、サイコロ、お米などをいれる
・小さな四角い箱型や将棋のような舟型などいくつかの形態がある
・嵐の前など「チッチッチ」と鳴る。「フナダマさんがいさむ」といい吉凶の前兆を示す
・潮が8割まで満ちたときにフナダマさんを込める。まだあがる余地があるので演技がいい
など。

このような風習は現代ではもう消えてしまっているかと思いきや、調査してみると様々な証言を得ることが出来たので、瀬戸内アーカイブのメンバーで瀬戸内海各地をリサーチしております。


瀬戸内海の与島の船大工・辻岡忠治さんがつくった船霊(フナダマ)さんを食い入るように見入るこえび新聞・瀬戸内アーカイブのメンバー。木は、ヒノキを使用。箱型ではなく船に見立てた将棋型にしたのは辻岡さんのアイディア。技術は見て盗んで身につけた。
博打性の高い漁師という職能、舟板のすぐ下には死があるため自然への畏怖と敬意の念が強いことから、船乗りは信心深い方が多く、GPSや魚群探知機など多くの最先端の科学技術にたよっている現代の船でも、こうした信仰が残っているのかもしれません。


瀬戸内海、与島にあるバス停「造船所前」

瀬戸内海の美しい風景を描写した最初の西洋人、幕末に日本に滞在したドイツ人医師・シーボルトは瀬戸内海の与島(よしま)の造船所を訪れた記録があります。
参考:シーボルトが訪れた与島のドック – 瀬戸内生業史ノート
参考:西田正憲さんの『瀬戸内海の発見-意味の風景から視覚の風景へ』


瀬戸大橋の架かる与島(よしま)にいる船大工、辻岡忠治さんに船霊(フナダマ)さんのお話を聞きに行ってきました。


数年ぶりにお元気そうな姿をみられて嬉しい。
ご兄弟で石の運搬船など多くの船をつくってきたという辻岡さん。


「船おろし」と呼ばれる進水式の様子。大漁旗をかかげて餅投げをしているのがわかります。詳細は、雑誌「せとうち暮らし vol.13」の乗松めがねを御覧ください。 提供:与島の船大工辻岡忠治さん 撮影:1961〜63年(昭和36〜38年)


与島の船大工、辻岡さんの工場を見学させていただきました。


数年前に訪れて依頼、久しぶりにお会いしましたがお元気そうで嬉しかったです。
まるで、落語の噺家(はなしか)さんのように、これまで出会った人や
和船を作る時の心内などを物語調で話してくださいました。すごい。


もう今はこの工場にあるような技術で船をつくることはできんだろうな、と辻岡さん。


これまで多くのものを生み出してきた船大工の手。働きさえすればお金にはこまらない手相だと、手のひらをみせてくれる与島の船大工、辻岡さん。「それなら年金なんていらんわって思って解約したら倒れてしもてな。算段が外れたわ」と笑って話す。


船に見立てた将棋の形のフナダマさん。船に固定しやすい板付きのものや、箱型のものもあります。
夏に発行予定の瀬戸内国際芸術祭・こえび新聞の『瀬戸内アーカイブ』コーナーをお楽しみに。


最後に「フナダマさんの魂はどこからやってくるのですか」と聞くと、「それはな船大工が込めるんやそれが技や」と話す辻岡さんの目は輝いていました。

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