丸亀からフェリーに乗って30分ほどのところにある本島にシーボルト・ガーデンという庭があります。

オペラ「椿姫」も、シャネルの「カメリアシリーズ」も、1835年に博物学者のシーボルトが『日本植物誌』で「冬のバラ」としてツバキ(Camellia japonica)を紹介したことはじまったもの。紫陽花の学名「Hydrangea otaksa」には、シーボルトの妻お滝さんの名前がはいっています。

日本を西洋に紹介したシーボルトは、植物のみならず瀬戸内海という概念そのものもシーボルトが紹介する以前は、存在しませんでした。そんなシーボルトが西洋に紹介した植物を植えた庭が瀬戸内海塩飽諸島の本島にあります。

I went to the Siebold Garden at Honjima island, Marugame city, Kagawa pref., Japan. Exhibition associated with Philipp Franz von Siebold.

シーボルト(1796〜1866)は、鎖国下の日本に西洋の医学を伝え、医学の発展に大きく貢献した医師として広く知られています。彼はまた、植物学に造詣が深く、日本の植物を初めてヨーロッパに紹介した博物学者でもありました。

オランダ商館医として1823年から1829年まで長崎の出島に滞在し、私塾・鳴滝塾で多くの門人を育てる一方、シーボルトは日本の動植物を研究し、2,000株近い植物と数千の種をオランダに持ち帰り、日本の植物をヨーロッパ中に広めました。今日、オランダの庭園には、「sieboldii」あるいは「sieboldiana」「japonica」という名のついた植物が数多く見られ、オランダで普通に見られる植物の70%がシーボルトが日本から持ち帰ったものだと言われています。

シーボルトは日本滞在中に瀬戸内海を航行し、その島々の美しさを初めてヨーロッパに伝えた人でもあります。「シーボルトガーデン」は、かつてシーボルトが感動した瀬戸内の風景のなかで、シーボルトにまつわる植物を主とした新しい形のランドアートを作り出すプロジェクトです。時と共に生長し、四季によって表情を変える植物が創り上げる庭を歩きながら、文化と人のさまざまなつながりに思いを馳せて歩いてみてはいかがでしょうか。

本プロジェクトは、瀬戸内国際芸術祭2013の参加作品として、オランダ人アーティスト、カリン&パットにより提案され、芸術祭の会期中は、庭園のほか、環境彫刻とビデオ・インスタレーションが展示されました。庭園のデザイン・植栽は、川口豊さん・内藤香織さんが手がけています。日本とオランダの架け橋として多岐にわたって活躍したシーボルト。その足跡を礎に、未来へつながる活動の場として庭園を維持し、長期的に展開していきます。

シーボルトガーデン
作家:川口豊(かわぐちゆたか)さん、内藤香織(ないとうかおり)さん
休業:無休 料金:無料
住所:香川県丸亀市本島町泊494 [Google Map]

Siebold Garden
Exhibition associated with Philipp Franz von Siebold.

Artwork Location : Honjima Tomari / Koushou
Hours : Outdoor artwork Closed : Open everyday
Artists : Yutaka Kawaguchi / Kaori Naito
Address : 494 Tomari, Honjima island, Marugame city, Kagawa pref., Japan [Google Map]


紫陽花

瀬戸内海は、古来、日本人に親しまれ、1934(昭和9)年には日本最初の国立公園に指定されたすぐれた景勝地です。しかし、その最大の特徴である「内海多島海」という瀬戸内海の風景が「発見」され、賞賛されるようになったのは、シーボルトが瀬戸内海を記述してからだと言われています。古代の『万葉集』以来、瀬戸内海の名所旧跡は歌に詠まれてきましたが、それは点としての風景であり、「瀬戸内海」という広域にわたる風景としてはとらえられてはいませんでした。

シーボルトは1826年にオランダ商館長の江戸参府に随行し、瀬戸内海を船で往復します。この時の紀行文を、大著『日本』の中に記し、それはヨーロッパで高く評価され、日本観、瀬戸内海観について、欧米人に大きな影響を与えました。シーボルトは詳細に瀬戸内海の地形、地質、植物について調査報告し、多島海の成因についても科学的に説明しています。また塩田や宿、港、神社についても言及し、その暮らしのあり方にある種のユートピアを見出しています。

シーボルトは、本島を含む塩飽諸島に船でさしかかった時に見た風景について、次のように記述しています。

「船が向きをかえるたびに魅するように美しい島々の眺めがあらわれ、島や岩島の間に見え隠れする日本(本州)と四国の海岸の景色は驚くばかりで―ある時は緑の畑と黄金色の花咲くアブラナ畑の低い丘に農家や漁村が活気を与え、ある時は切り立った岸壁に滝がかかり、また常緑の森のかなたに大名の城の天守閣がそびえ、その地方の飾る無数の神社仏閣が見える。はるかかなたには南と北に山が天界との境をえがいている。隆起した円い頂の峯、それをしのぐ円錐の山、ぎざぎざの裂けたような山頂が見え―峯や谷は雪におおわれている。(斉藤信訳『江戸参府紀行』より)」

1871(明治4)年より欧州11カ国を歴訪した岩倉使節団は、その報告書のなかで、西洋では瀬戸内海を「世界第一の景」と称していると記述しています。その頃、すでに瀬戸内海の風景は欧米人に賞賛され、世界的な名声を得ていたのです。大衆観光の近代ツーリズムの産みの親トーマス・クックも、1872(明治5)年から222日間の世界一周旅行を行った際、日本にも立ち寄り、瀬戸内海を絶賛しています。そうした瀬戸内海の評価の先鞭(せんべん)をつけたのがシーボルトであったのです。

シーボルトは日本滞在中、日本についての総合的な調査を行い、特に植物調査・研究を精力的に展開します。シーボルトは医師でしたが自然科学への造詣も深く、薬草研究にも通じる植物学は医学とも密接に関連していました。シーボルトは自ら植物を収集するだけでなく、門人や日本の学者らから大量の資料提供を受け、収集した植物標本は1万点におよんだと言われています。

シーボルト事件後、オランダに帰ったシーボルトは、1835年に『日本植物誌』の出版を開始します。150の植物図版とその解説を収録した本書は、植物学者ツッカリーニとの共著で、当時は分冊として発行され、最終分冊が出版されたのはシーボルト死後の1870年。35年もの歳月をかけて刊行されたのです。

『日本植物誌』は植物学や民俗学、文化史の視点からも、また植物画(ボタニカル・アート)としても極めて水準の高いものでした。その制作には、日本の本草学者・宇田川榕菴、水谷豊文や桂川甫賢らから収集した資料や絵師・川原慶賀などの下絵が寄与しました。シーボルトの覚書からは、当時の日本人の植物についての知的水準の高さと、日本人が植物といかに身近に接していたかが伝わってきます。またシーボルトは、西洋植物学の日本への紹介にも貢献しました。門下生・伊藤圭介はシーボルトより授かったシュンベルク著『日本植物誌』を『泰西本草名疏』として翻訳し、リンネの植物体系を日本に初めて紹介しています。

『日本植物誌』は日本の観賞植物に焦点を当てています。美しい図版を伴った日本産植物の紹介は、ヨーロッパ各国のガーデニングに圧倒的な影響を及ぼし、19世紀から20世紀にかけて、ヨーロッパは日本や中国の植物の移入に熱狂します。その仕掛け人がシーボルトだったのです。

シーボルトは日本の植物がヨーロッパで育つように気候馴化植物園を設立し、園芸振興のための組織を創り、販売カタログを作成し、種子や苗木の通信販売を手がけます。それはまた、私費出版であった『日本植物誌』の出版を継続する助けとなりました。シーボルトは『日本植物誌』の完成のためにあらゆる努力を尽くしたのです。

現在、シーボルトの採取した植物標本は、その大部分がライデンのオランダ国立植物標本館にあります。

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Manners and Customs of the Japanese
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シーボルトガーデン 本島 | 瀬戸内国際芸術祭

シーボルトは、瀬戸内の魅力をヨーロッパへ伝えた。持ち帰った日本の植物も広めた。環境彫刻による庭を制作し、瀬戸内の自然で育つ植物が一面を覆い尽くす。

作家:川口豊(かわぐちゆたか)さん、内藤香織(ないとうかおり)さん
休業:無休
料金:無料
住所:香川県丸亀市本島町泊494 [Google Map]

Siebold Garden
Exhibition associated with Philipp Franz von Siebold.

Artwork Location : Honjima Tomari / Koushou
Hours : Outdoor artwork
Closed : Open everyday
Artists : Yutaka Kawaguchi / Kaori Naito
Address : 494 Tomari, Honjima island, Marugame city, Kagawa pref., Japan [Google Map]