日本の船にはその大小に関わらず、『船霊(ふなだま)』が積まれていることが多いです。フナダマは、『船玉様(ふなだまさま)』とも書き、漁民や船乗りの間で広く信仰されている船を守る神様です。石や米粒など万物に魂を宿す日本古来の神道ならでは考え方なのかなと想像します。調査してみると木造船だけではなく、最近のFRPのプレジャーボートにも船霊が積まれているを発見しました。
船霊(フナダマ)は船を護るとされる神霊です。サイコロ・人形・硬貨・穀物などをご神体として、将棋の駒に近い形状の木製容器に納めて、主に船の操舵室に祀られています。瀬戸内以外の地域では、御神体に女性の毛髪や化粧道具が加わる場合もあります。かつては帆柱や船梁といった部分に彫り込んだ窪みに御神体を納めていたこともあったようですが、動力の機械化や船体の材質の変化によりそうしたケースは見られなくなりました。船霊の容器や人形、サイコロは船大工が製作し、硬貨や穀物も船大工が準備します。
「イッテンチロク、ミヨシミアワセ、トモシアワセ(小豆島の船大工)」「オモテミワタシャトモシアワセ、ドノマハタイリョウオカハマンサク、カナイアンゼン、ショウバイハンジョウ(与島の船大工)」
容器にご神体を納める際には船大工が特有の文句(呪文)を唱えます。不漁が続いたり、亡くなた人を乗せたりした場合に船霊を入れ替えていましたが、この行為も船大工によって行われました。航行中、船霊は「チリンチリン」「チッチッチ」などと鳴くことがあったといいます。よくないことが起きる前触れであるとか、特定の場所を通過すると鳴くとか、その理由は様々あります。(こえび新聞より)
Funadama is a divine spirit that is said to protect ships. Dice, dolls, coins, grains, etc., are enshrined as sacred objects in wooden containers similar in shape to chess pieces, mainly in the wheelhouse of ships. The vessels, dolls, and dice of the ship spirits are made by ship carpenters. They also prepare the coins and grains. The ship carpenter chants a special incantation when he places the sacred object in the container. The spirits of the ship were replaced if the fishing was poor or if the ship carried a deceased person, which was also done by the carpenter. (Koebi Newspaper)
2017年4月 こえび隊 こえび新聞 瀬戸内アーカイブ取材
高松市中央卸売市場近くにある造船所。
これが船霊(ふなだま)。香川県高松市のフナダマ
高松中央卸売市場近くの造船所にて「船が好きなやつに悪いのはいない」と見せてくれたフナダマ。漁船ではなく、釣り用プレジャーボートだが操舵室の先に設置されています。
瀬戸内海歴史民俗資料館 Seto Inland Sea Folk History Museum
建築家・山本忠司(やまもと ただし)さん設計
フナダマサン
2017年6月
与島の船大工、辻岡忠治さんを取材。
船の魂を込める船大工の技。瀬戸大橋、与島の船大工 – Funadama, the spirits of ships | 物語を届けるしごと
与島の船大工、辻岡忠治さん(1933年 昭和8年生まれ)
辻岡さんは幼い頃からお父さんの技術を見て学び、弟さんと一緒に船大工としての人生を歩んできました。「わしたの技術はここら辺では、誰も真似できん!」奥から持ってきた自作のフナダマを手に語ります。「フナダマさんはわしの命の恩人じゃ」「不漁が続いたり、亡くなった人を船に乗せたり、フナダマが泣いた時などは、フナダマを入れ替えてくれと言われてようけ作った」そうです。
Mr. Tadaharu Tsujioka (born in 1933) is a ship carpenter in Yoshima island.
Mr. Tsujioka has been watching and learning from his father’s skill since he was a child, and he and his younger brother have been working together as a ship carpenter. No one around here can imitate our skills! No one around here can duplicate our skills!” he said, holding a homemade funadama from the back of the house. He said, “Funadama saved my life,” and “I was asked to replace Funadama when we had a bad catch, or when we had to bring a deceased person on board, or when Funadama cried, so I made a lot of Funadama.
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与島のドック(造船所)
特別に中をあけて見せてくださいました。
フナダマ(与島)
与島(香川県坂出市)の船大工、辻岡さんが以前に作成したヒノキ製のフナダマ。ノミを隙間に差し込んで、ポンと叩いて蓋を取り外して中身を見せてくれました。開けたのは、密閉して以来とのことです。
フナダマの中身。与島の船大工、辻岡さんにみせてもらったものです。
Contents of the Funadama. These were shown to me by Mr. Tsujioka, a boat builder in Yoshima island.
・穀物:紙に包まれた白米。紙にシミがあるのは、蓋を閉める直前に酒をふりかけたためです。
・硬貨:12枚の100円玉。うるう年は13枚入れた。遭難時の経済的な保険としての意味もあるといいます。
・人形:木製の平たい人形に墨で顔などを描きます。着物はもちろん右前で表現されています。
・サイコロ:直方体の木の間に切り込みを入れて一部が繋がった状態のサイコロとしました。目の方向は揃えます。
Grain: White rice wrapped in paper. The stain on the paper is due to the fact that it was sprinkled with sake just before the lid was closed.
Coins: 12 100 yen coins. In leap years, I put 13 coins. The coins are said to be used as financial insurance in case of a disaster.
Dolls: Wooden flat dolls with faces and other parts drawn on with ink. The kimono is of course drawn on the right front.
Dice: The dice are made by cutting a slit between two pieces of rectangular wood. The direction of the eyes should be aligned.
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2017年3月 愛媛県松山市三津浜。こえび新聞瀬戸内アーカイブ取材
愛媛県松山市三津浜のフナダマ
操舵舵の横に置かれたフナダマ。漁で網が破れたり船が故障した場合に「フナダマがたまげた」と言って酒と米と尾頭付きの魚をお供えをするそうです。漁師が中を開けることはありません。
香川県・金比羅宮。海の神様「こんぴらさん」さんとして多くの船乗りの信仰を集めています。
三津の渡し。
造船所
石油を運ぶ船
2017年5月 山口県柳井市 せとうちスタイル 古墳取材
厳島神社
山口県柳井市のフナダマ
ネジで固定するため先端が板になっています。直線距離で200kmも離れていますが、海運の守護神を祀っている香川県の金毘羅宮の札を置く漁船も多いです。船で詣でるのでしょうか。
2017年5月
撮影させていただける方や、こんな船霊みかけたよという方がおりましたらご連絡いただけますとうれしいです。せとうち暮らしやこえび隊のメンバーと『瀬戸内アーカイブ』という有志の活動をしています。瀬戸内国際芸術祭の広報誌『こえび新聞』の裏一面を頂き、瀬戸内海を様々なテーマで切り込み、アーカイブしています。今夜は、船霊(ふなだま)や瀬戸内海の地形について盛り上がっています。港や船でこえび新聞をみかけたら探してみてください。
こえび新聞 15号 – PDF
【こえび新聞】こえび新聞第15号! | 新着情報:活動報告 | 瀬戸内国際芸術祭サポーターこえび隊
天平宝字6年(762年)に嵐にあった遣渤海使船能登で、無事の帰国を船霊に祈ったことがあり、起源は相当古いようである。 御神体がある場合とない場合がある。 ある場合は、人形、銅銭、人間の毛髪、五穀、賽などを船の柱の下部、モリとかツツと呼ばれる場所に安置し、一種の魔除け・お守り的な役目を果たす。また、陸上に船霊を祀る神社をおく場合もある。近年では地上の寺社のお札を機関室などに納めることが多いようである。 ない場合でも、正月11日に「船霊祭」等と称して儀礼を行ったり、「船迎え」という行事を行うところもある。 全国的に、船霊は女神であるとされる。海上に女性を連れて行ったり、女性が1人で船にのったりすると、憑かれたり、天候が荒れたりするとして忌む傾向がある。元来は巫女が入ったものと考えられ、その女性を指して「オフナサマ」といったためにこのようなタブーができたと考えられる 船霊を主に祀るのは漁民の他、船大工である。船が完成すると棟梁は船霊をまつる儀式を執り行う。海上では「カシキ」と呼ばれる、炊事を担当する少年が稲穂などを捧げて世話をした。 神体としてのサイコロは2つで、「天1地6、表3あわせ艫4あわせ、中にどっさり (5)」になるように据えたという モリやツツからでる「ぢっちんぢっちん」という音は、神の垂れる(ソシル、イサム、シゲルという)、神託と捉られた。
・海外で船霊にあたるものとしては、西洋で船首や船尾に女神を模した船首像を取り付けることがある(また、ドイツやオランダなどでは船首像に船を守る妖精が宿るという伝説がある)。中国の媽祖などの文化もある。
・近世期における妖怪としての安宅船の話として、志の低い者や罪人が乗り込もうとすると、唸り声をあげ、乗船を拒否し、徳川家康の安宅船は、嵐の夜、「伊豆へ行こう」と声を出し、自ら江戸を出航して三浦三崎で捕らえられ、廃船処理された。『新著聞集』の記述では、この船材を購入した者の女房に安宅船の霊が憑りつき、精神に異常をきたしたため、その魂を鎮めるため、本所深川の安宅町に塚を築き、供養したという。また『日本書紀』や『続日本紀』には、功績のあった船に対して、五位(下級貴族の位)を授ける例が見られることからも、古代から船そのものに対して、魂や人格を認める考え方があった。
瀬戸内海では、行商や漁撈などに関わる海上生活が行われる事例が多く見られました。徳島県鳴門市瀬戸町堂浦の漁民は、カンコ船で瀬戸内海全域に出漁し、釣糸のテグスを各地に伝え、その需要の高まりからテグス船で行商を行うようになりました。一本釣り漁民としての活動が、その後のテグス船による瀬戸内海での広域な行商の展開の契機となったのです。
また瀬戸内海では、マダイやサワラなどを捕獲するため、漁期の間、船上で生活をしながら網漁を行いました。そのため、捕れた魚は海上で商人に売られ、運搬船で消費地に運ばれました。海上は漁撈の場であると同時に交易や日常生活の場でもあったのです。
さらに海上は信仰の場ともなりました。船内には船を守護する船霊や大漁祈願のためのエビス・ダイコク、各地の神社の神札などが安置されました。また海上に浮かぶ網の浮きや浮樽が大漁をもたらす網霊(オオダマ)として信仰されるなど、海上の生活から特有の信仰が形成されました。
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