尾道の斜面に建つ旧和泉家別邸は、その特異な形状から『尾道ガウディハウス』として呼ばれています。もともとは和泉茂三郎さんという方の別邸として建てられ、1人の大工が3年かけて1933年(昭和8年)に竣工した建物です。その後、空き家になり取り壊しの危機にあったものを、現在のNPO法人尾道空き家再生プロジェクトの代表の方が買い取り再建しました。2013年に国の登録有形文化財に登録。
Old Izumi family’s house is called “Onomichi Gaudi House” located Onomichi city, Hiroshima pref., Japan. This house was designated as a registered tangible cultural property of Japan.
旧和泉家別邸(尾道ガウディハウス)
住所:広島県尾道市三軒家町9−17 [Google Maps]
Old Izumi family’s villa(Onomichi Gaudi House)
Address : 9-17 Sankenya town, Onomichi city, Hiroshima pref., Japan [Google Maps]
階段
雨水排水
床のタイル
ガラス扉
質実剛健
ベランダのタイル
雨樋
ランプ
階段。限られたスペースを有効に切り分けた独特な構成。
青
スイッチ
梁
ランプ
器
新調された水廻り
お風呂
窓ガラスから斜面の石積みが見えます。
美しい光のぼかし効果
吊ることでスペースの有効利用
かまど
流し
床下の収納庫
神棚
瓦
銅板の樋
壁
複雑な屋根の構成
旧和泉家別邸(尾道ガウディハウス)
住所:広島県尾道市三軒家町9−17 [Google Maps]
Old Izumi family’s villa(Onomichi Gaudi House)
Address : 9-17 Sankenya town, Onomichi city, Hiroshima pref., Japan [Google Maps]
歴史
尾道に山陽鉄道が開通することにより、線路敷設のため立ち退きに迫られた住民によって線路北側の山手側に家屋の建設が始まった。加えて鉄道運搬によって財をなした商人たちが本宅とは別に“茶園”と呼ばれる別荘を山手側に建て始めた。この住宅もそれらの流れの中で建てられたもので、箱物製造・販売を手がけていた和泉茂三郎という人物の離れ・別邸として建てられ、1人の大工が3年かけて1933年(昭和8年)竣工したという。1980年頃まで和泉家が用いていたが、その後は空家同然となり手入れもされていなかったため倒壊の危機にあり、取り壊される予定であった。そこで現在NPO代表を務める人物が2007年に買い取り再建を開始、この流れで2008年NPO法人が発足している。
2013年12月24日、国の登録有形文化財に登録される。
構造
傾斜地に建つ10坪の狭い洋館付住宅。木造2階建(一部地下)、寄棟造、桟瓦葺き。坂の町尾道を象徴するかのような崖地の複雑かつ狭い敷地、外壁は南京下見板で施しそれが深い陰影をもたらし、建築当時流行した和洋折衷型いわゆる擬洋風建築で造られたことで、独特の雰囲気を醸し出している。特に階段が珍しく、三角形で片側に湾曲している。別邸として造られたため簡易な台所があるだけで浴室などはなく水回りの改築は行っていない。地下は防空壕を兼ねていたという。ガウディハウスはアントニ・ガウディを連想させるとして以前からそう呼ばれていたそうであり、再建を進めるNPO法人によるとサグラダ・ファミリアのようにいつ完成するかわからないものという意味合いを含めてこの愛称で呼んでいるという。
大正末期から昭和初期にかけて戦前の豊かな時代に、他の港町と同様尾道でもハイカラな洋風建築が流行りました。鉄道開通後栄え始めていた尾道駅裏の斜面地には擬洋風建築の建物が今も多く残されており、旧和泉家別邸もそのひとつで、わずか10坪の狭い建物の中に当時流行った技法がところ狭しとちりばめられた洋館付き住宅となっています。
昭和8年に和泉家の別邸として一人の大工さんが3年かけて建てた建物ですが、跡継ぎ不足と老朽化で25年間空き家の状態で解体の危機にありました。2007年より尾道の斜面地における空き家再生のシンボルとして、プロセスを共有しながら再生しています。再生完了後は和の空間を生かした貸しスペースや短期滞在可能な貸家として活用し、尾道建築の生きた証しとして後世に繋げていきたいと考えています。建築的所見:一級建築士 渡邉 義孝
この住宅は、尾道市で箱物製作・販売を手がけていた和泉茂三郎氏が、 1933年(昭和8年)に離れ・別宅として建設したもの(棟札を確認)であり、その後1980年頃まで親族関係者の方の住まいとして利用され、 のち25年以上空家状態となっていたものである。
建物は木造2階建て(一部地下室あり)で和館部と洋館部からなる。北西側に三角形に広がる和館部は桟瓦葺き、寄棟造りで、西側に庇を付け、北側の玄関上には数段に重なる飾り屋根を持つ。間取りは1階が玄関・取次の他に六畳、家事室(二畳半大)、台所(三畳大)、廊下と大小便所からなり、2階は八畳座敷、二畳、廊下および外部に露台がある。両階ともに西側に張り出しの窓台を備える。外壁は厚18ミリほどの杉板による南京下見板張りを基本とし深い陰影を持つ黒いマッシブな外観をつくりあげている。また、鋭角に尖ったコーナーや少しずつ角度を変えて回る庇など極めて複雑な躯体および屋根形状が目を引く。南側に矩形に伸びる洋館部はパラペット付きの陸屋根で、南と西に庇を廻す。東の石垣に寄り添うように架構され崖側の壁は傾いてつくられている。2階の洋室は漆喰塗りで仕上げられ、執務室として使用されていた。外壁は着色したセメントを叩きつけたドイツ壁で、擬洋風建築らしい上げ下げ窓が採用されている。和館部分の状態は比較的良いが、石垣に密接し陸屋根でもあった洋館部は雨水の浸入による腐朽・破損が進んでいる。
意匠上の特徴は第一に地形に合わせた複雑な形状と南京下見板張りの力強い外観である。明治から昭和初期にかけて普及した和洋折衷住宅の系譜としてドイツ壁と上げ下げ窓の擬洋風のデザインと、和風住宅の伝統を併置させる、当時の建築思潮を体現した貴重な建築といえる。第二に、良質な木材と手の込んだ造作に満ちていることである。二階の八畳座敷の北側には床脇とつながる本床の床間があり、磨き丸太の床柱と狆潜り、筆返しと海老束を持つ違い棚が格式の高さを象徴している。特に目を引くのは三角形かつ片側が湾曲した階段で、13段の段板はすべて形が異なり、アール形状の壁にはその曲面そのままの収納扉まで付いている。住人の記憶によれば「階段だけで2年をかけた(建築工事は3年)」という、特異な作品である。他にも張り出し窓台の勾欄親柱の面取りや、平書院の変り組みの組子障子、欄間の彫刻や組子障子、丸窓などに丁寧な細工を見ることが出来る。第三に、土間台所につくられたタイル張り竃(かまど)や防空壕を兼ねた地下室など昭和初期の生活スタイルを今に伝えているということである。これは、この家が浴室も本格的な台所もない別邸であり、日用の利便性を優先されることもなく、水回りリフォームなどの経験を経ていないという事情によるものである。
また、当建物には建設時の「建材買求帳」が現存し、四国の山林購入や大阪のタイルの仕入れ記録等も残っている。建築生産システムのデータとしても貴重なものといえよう。
総じて旧和泉家別宅は、近代和風建築がその技術の最高潮を迎えていた昭和初期の造形の規範となる遺構であるとともに、その立地と眺望において坂の町尾道を代表する歴史的景観のひとつとなっている。そして随所に、現代の建築技術をもってしては再現が不可能、あるいは困難な意匠を持つ貴重な和洋折衷建築というべきである。








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