国土交通省・観光庁が2020年6月16日に令和2年版『観光白書』を発表しました。最近の観光の動向や観光がもたらす経済効果を幅広い観点から分析するとともに、観光立国の実現に向けて講じようとしている施策を報告しています。今回はこの観光白書において、特に訪日外国人旅行者数が伸びている香川県に関する分析が掲載されているので、以下にご紹介します。
外国人延べ宿泊者数は、第4回目となる瀬戸内国際芸術祭の開催により、香川県において大幅に増加した影響により四国全体についても大きく増加し、初めて100万人泊を突破、延べ宿泊者数全体も増加しました。
香川県の2019年の外国人延べ宿泊者数は、3年に1度行われる瀬戸内国際芸術祭の開催が増加要因と考えられますが、芸術祭の開催年ではない2018年と2017年も2012年と比較して10倍以上と全国で最も大きい伸びです。2012年と2019年の都道府県別外国人延べ宿泊者数を比較すると、全国平均より増加した地域は大阪府を除き全て地方部である一方、全国平均以下もあり、地方の中でも誘客状況に差が生じています。最も増加した香川県は2012〜2019年で16倍と、他の地域より特に大きい伸びとなっています。
四国4県の2019年の訪日外国人旅行消費額と訪問者数を県別に比較すると、香川県が旅行消費額、訪問者数共に最も多く、徳島県、愛媛県及び高知県の約3~5倍となっています。
四国訪問者が国内のどの都道府県で消費したのかをみると、香川県訪問者の旅行消費額全体は605億円、香川県で最も多く消費しており、その割合は全体の25%。四国他県は、徳島県11%、愛媛県12%、高知県13%。香川県は四国他県よりも消費額が多いことがわかります。
四国を訪問した外国人旅行者の1人当たり宿泊数と旅行支出について、訪問地別の構成比。香川県の訪問者は四国他県の訪問者よりも香川県内で消費する割合が高く(24%)、四国他県での割合が小さい(6%)。四国他県の訪問者は宿泊数と旅行支出が少なく、四国内の他県での宿泊数と旅行支出が多くなっていて、滞在期間ほどの消費がなされていないことがわかります。これらのことから、香川県訪問者は香川県を目的として訪問しているが、四国他県の訪問者は四国を目的として複数の県を訪れる傾向があると考えられます。
地方における訪日外国人の動向。縦軸が平均泊数、横軸が訪問者数、円の面積が旅行消費額です。香川県は、訪問者数は少ないが、平均泊数の長さが消費額の大きさにつながっています。
四国を訪問した訪日外国人旅行者が、どのような地域を訪れたのかを示す図です。香川県訪問者についてみると、四国他県を訪問した割合が34.4%、近畿地方を訪問した割合が43.6%、関東を訪問した割合が24.2%、香川県訪問者の51.3%が高松空港から入国しています。
・パターン①は高松空港で入国し香川のみを訪問した旅行者の割合
・パターン②は高松空港で入国し香川と四国他県の訪問した旅行者の割合
・パターン③は関西空港で入国し香川と近畿地方の訪問した旅行者の割合
香川県訪問者は、香川県のみを訪問する割合が22.3%と最も大きく(パターン①)、次いで香川県と四国他県が14.1%(パターン②)となっています。徳島・愛媛・高知の訪問者は、香川を訪問する割合が60%以上と大きく、香川・四国他県の組み合わせで訪れる旅行者の割合が最も大きいことがわかります(パターン①)。
外国人によるSNSへの投稿をみると、高松市や直島町での投稿が多いことがわかります。高松市では栗林公園、うどん専門店等の投稿が多く、直島町では地中美術館やベネッセハウス等アートに関する投稿が多い。カテゴリー別では自然景観の投稿が最も多く、次いで美術館が多い。美術館の投稿のうち約7割が「アートの島」といわれる直島町です。
また、香川県訪問者による他の都道府県での投稿では、森美術館や彫刻の森美術館等アートに関する施設を訪れていることから、香川県はアートに関心のある層に魅力的な地域となっていると考えられます。
香川県以外の四国の投稿では、徳島県では「徳島ラーメン」「かずら橋」「霊山寺(四国八十八箇所1番札所)」などが投稿されていて、愛媛県では「道後温泉」「松山城」など、高知県では「高知城」「桂浜」などが投稿されています。
香川県と四国他県では訪日外国人旅行者の動向に違いがみられた。香川県は、美術館や自然景観が誘引力のある強力なコンテンツとなり、主目的地として訪問されています。そのため、香川県で長く滞在し、多く消費している。一方、徳島県、愛媛県、高知県は、認知されているコンテンツがあるものの香川県や他地域との組み合わせで訪問されており、香川県と比べると平均泊数が短く、消費単価が小さい傾向にあります。
<コラム 自然の中の現代アートに旅行者が魅かれる島 ~香川県直島~ >
香川県直島町は高松市の北方約13km、岡山県玉野市の南方約3km に位置する島である。瀬戸内海に浮かぶ数々の島の中のひとつであり、高松港から高速船で30分又は岡山県宇野港から旅客船で15分のアクセスである。島内は、港や住宅地等に現代アート作品が島の生活の一部として点在している他、複数の美術館があるなど、存分にアートを体感できる島となっている。
直島町の観光入込客数は2003年(平成15年)まで10万人未満で推移していたが、2004年(平成16年)に地中美術館が開館した頃から増加率が大きくなり、第3回瀬戸内国際芸術祭が開催された2016年(平成28年)には過去最高の72.7万人となり、2018 年(平成30年)は 54.4万人となった。その97%がアート施設への入込であり、直島で行われているアート活動と2010年(平成22年)以降3年に一度開催されている「瀬戸内国際芸術祭」が誘客に大きく貢献している。
直島における現代アートの始まりは、1989年(平成元年)に島内に瀬戸内の自然を体感する施設がつくられた際に設置された屋外彫刻であった。その後、1992 年(平成4年)に美術館と宿泊施設が一体となった施設が開業、1998 年(平成10年)に古い家屋を改修して作品にする活動を開始、2004 年(平成16年)に「地中美術館」開業と時間をかけてつくりあげられてきた。現在は、地元法人等が「文化や芸術によって地域に貢献する」という理念のもと、島の自然や、地域固有の文化の中に、現代アートや建築を置くことによって、どこにもない特別な場所を生み出す活動を行っている。
2009年(平成21年)にはイタリアとフランスで直島のアート活動を紹介するシンポジウムを開催。それらの効果もあり、海外メディアによる直島のアート活動に対する取材が増加し、現在は年間50~60本の取材を受けている。当初は欧米の旅行雑誌の取材が多かったが、近年は中国、香港、シンガポール等からの取材も増加している。
これらの取組により、直島のアート施設の一つである地中美術館の外国人の来館者数は年々増加し 2018年度(平成30年度)には7.7万人となった。
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