鬼ヶ島伝説があります。

双名島(ふたなじま)/中土佐町久礼の土佐十景に数えられる二対の島

双名島の美しさを伝える歌や、双名島にまつわる昔話
中土佐町史料「久礼読本」復刻版(平成22年3月 中土佐町教育委員会発行)より抜粋

『双名島 二人の親の 手を取りて この名所に 遊びてしがな』 -山村綾子・作-
恐らく、これは初めて双名島を見る、全ての人の心であろう。
大津崎にそっと抱かれて、波静かな久礼湾に緑の影を落とす弁天・観音の両島、その間に可憐な姿を見せる烏帽子(えぼし)岩の佳景は、土佐十景の名に恥じない。室戸岬の雄大・豪壮の気はないが、その線のこまやかな優雅な景は、おのづから人の心をなごやかにする。
大町桂月かつて久礼に遊び、これを賞するあまり一文を草して、
『大小の懸隔(けんかく)甚だしき二見の浦の二岩を旧式の夫婦岩とすれば、大きさほぼ相同じき久礼浦の双名島は、新式の夫婦岩とも言うべくや。相去ること百間ばかり、いずれも高さ十丈、下の周りは五十六間もあるべく、下の半身は骨を露し、上の半身は木立を帯びて、老松も少なからず。八幡祠頭よりみて、感歎に堪えず。』と。
双名島は四季とりどりに趣きがあって捨てがたいが、9月のある朝、拝した日の出の美観は忘れられない。
朝、薄暗いうちに八幡宮前の渚に出た。鼠色に和んだ海が、だんだんと白みはじめると、水平線のあたりが、微紅を帯びてきた。やがてそれは薔薇色に変わり、濃くなり、広くなり、空も海も一面に紅を流す。と一瞬、見やすい真紅の日輪が、波浪を割ってゆらりゆらりとご瑰麗な姿をあらわしてくる。烏帽子は、今、等身大に見え、果てしなく続く太平洋を背景に、毅然と後光を放って弥陀(みだ)の来迎(らいごう)を想わす。ああ、その美しさ、有難さは何にたとえようもない。渚には、合掌したまま黙然とうなだれた人の敬虔(けいけん)な姿が見られた。

双名はまた博説の島である。いま里人の昔語りに耳を傾けよう。
「昔むかし、鬼ヶ島の鬼が、ある日、鉄棒の両端に大きな岩をつきさすと、全身に汗をかきながらこの久礼をさしてやって来た。何でもその岩は、鬼ヶ島の門であったが、久礼の港口が荒れると聞いて、わざわざ持って来たのだ。しかし、ここまで来ると、さすがの力自慢の黒鬼も、すっかり疲れてしまって、
『おおの。』
と、うなり声をあげたまま、海の上にぶっ倒れた。しかし、その時連れていた子鬼が、溺れそうになったのを見ると、我が子可愛さに最後の力をふるい起こし、子鬼をさし上げながら海の底に沈んでいった。危うく助かった子鬼は、親の情けにさめざめと泣きながら、いつまでもその場を離れようとはしなかった。かくして悲しみの幾年月かが過ぎて、遂にその子鬼は烏帽子の岩と化したのである。だから両方の岩とも穴が開いているし、そこらあたりを大野といいうのだ。」
博説には、古人の思想がこもっている。
純真素朴な我らの祖先
港口の荒波に、ともすれば苦しめられて、何とかして浪を防ぐ手だてはないかと頭をはたらかせた祖先
の魂が身近に感じられて、微笑を禁じえないものがある。
『人ならば うれしからまし 双名島 二つ並びて 萬代(よろづよ)までも』 -大町桂月・作-

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