もりとみず基金の打ち合わせの後、高知県土佐町高須(たかす)の棚田へ。NHK「龍馬伝」で岩崎弥太郎が五右衛門風呂の中で歌っていた民謡「土佐柴刈唄」発祥の地です。吉野川上流域の山地の地形と水を巧みに利用してつくられた農業文化景観です。三波川帯の地質がつくる山と谷、その斜面に水路をめぐらせ、限られた平地を水田として利用してきました。
After a meeting with the Mori and Mizu Foundation, we headed to the terraced rice fields in Takasu, Tosa Town, Kochi Prefecture. This is the birthplace of the folk song ‘Tosa Shibakari-uta’, which Yataro Iwasaki sang whilst in a Goemon-style bath in the NHK drama ‘Ryōmaden’. It is an agricultural cultural landscape skilfully created by utilising the mountainous terrain and water resources of the upper reaches of the Yoshino River. The mountains and valleys formed by the geology of the Sanbagawa Belt have been utilised by winding irrigation channels along their slopes, allowing the limited flat land to be used as rice paddies.
高須の棚田
住所:高知県土佐郡土佐町高須 [Google Map]
指定:土佐柴刈唄(土佐町無形民俗文化財)1966年(昭和41年)5月17日
選定:つなぐ棚田遺産(農林水産省)
Takasu Terraced Rice Fields
Address: Takasu, Tosa-machi, Tosa District, Kochi Prefecture [Google Map]
Selected by: Connecting Terraced Rice Field Heritage (Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries)
2026/09/22
さらに興味深いのが「土佐柴刈唄」。かつて山や畦で刈った柴や草を田の肥料として利用し、その重労働の中で歌われた労働歌です。棚田、水路、山林、集落、古い地名、そして柴刈唄。これらを重ねて見ると、高須は単なる「棚田の絶景」ではなく、山と水と米、そして人々の暮らしが長い時間をかけてつくり上げた文化景観であることが見えてきます。高須の棚田の米がおいしいのは、標高約600mの冷涼な気候、昼夜の寒暖差、豊かな山の水、そして斜面に築かれた棚田という環境が重なっているからです。特に夜間の涼しさは、稲の登熟に適した条件をつくります。
稲の登熟(とうじゅく)とは、出穂(しゅっすい:穂が出る)して開花・受粉したあと、もみ(粒)のなかでデンプンなどの養分が蓄えられ、お米が実って成熟していく期間(約40〜50日間)のことです。
What is even more fascinating is the ‘Tosa Shibakari-uta’. It is a work song sung whilst performing the arduous labour of gathering brushwood and grass from the mountains and field ridges to use as fertiliser for the rice paddies. The terraced rice fields, irrigation channels, mountain forests, villages, ancient place names, and the ‘Tosa Shibakari-uta’—when viewed together, it becomes clear that Takasu is not merely a ‘spectacular view of terraced rice fields’, but a cultural landscape shaped over a long period by the mountains, water, rice, and the lives of the people. The rice grown in Takasu’s terraced fields is so delicious because it benefits from a combination of factors: the cool climate at an altitude of approximately 600 metres, the significant temperature difference between day and night, the abundant mountain water, and the environment of the terraced fields built on the slopes. In particular, the coolness at night creates ideal conditions for the ripening of the rice.
2026/09/17
早明浦ダム
2026/09/22
高須棚田 標高600m。悠久に伝える美しく広大な棚田 – つなぐ棚田遺産(農林水産省)PDF
高須棚田は土佐町でも有数の景観を誇る。古から守り伝えてきた棚田景観は、地域の積極的な維持活動に支えられており、良好な生産と、美しい眺望を両立している。「相川米」の産地であり、近年では酒米にも取り組む。
『土佐柴刈唄』全文
以下は、高須地区で伝承されている歌詞です。なお、実際の唄では「ノー」「ユホー」「ヨイショー」などの囃子詞が重要な役割を果たします。(とさちょうものがたり – 高知県土佐町のウェブサイト)
1 田肥をつくる
田肥ノー よしよやれ
よしよやれ た肥
ヨイショー ヨイショー
田肥よしよやりや ユホー
実がやどる
ハア ヤレショー ヤレショー現代語訳
田んぼの肥料を、さあ、しっかりやろう。
よし、よし、田の肥料をつくろう。
田肥を十分にやれば、
稲に実が宿る。ここは、この唄の中でもっとも直接的に柴刈りの農業上の目的を歌っています。
2 恋する人を訪ねて
来いとノー 誰が言うた
笹山こえて
ヨイショー ヨイショー
露に御袢の ユホー
紐ぬれた現代語訳
「来て」と、誰が言ったのだろう。
笹山を越えて会いに行く。
朝露にまみれて、
着物の襟元や紐まで濡れてしまった。これは農作業の歌から突然、男女の恋愛の歌に変わります。
実は土佐町の民話には、この歌にまつわる伝承として、江戸時代末期の高須の男性・常右衛門が、笹山を越えて土佐山村の女性・お兼のもとへ通ったという話が残されています。片道約3時間とも語られ、99日通った末に結ばれたという物語です。(とさちょうものがたり – 高知県土佐町のウェブサイト)
3 待っていると来ない
来いでノー 来いでと
待つ夜は 来いで
ヨイショー ヨイショー
待たぬ夜に来て ユホー
門に立つ現代語訳
「来て、来て」と待っている夜には来ない。
ところが、待っていない夜になると、
突然やって来て、
門の前に立っている。恋愛の駆け引きを歌った節です。2番・3番を続けて読むと、笹山を越えて会いに行く男女の恋物語としてつながります。
4 人は情の中に住む
鮎はノー 瀬に住む
鳥や 木にとまる
ヨイショー ヨイショー
人は情の ユホー
蔭に住む現代語訳
鮎は瀬に住み、
鳥は木にとまる。
そして人は、
人情に支えられて生きている。非常に美しい節です。
「鮎=瀬」「鳥=木」「人=情」という三段構成になっていて、人間は人との情の中で生きるものだ、という感覚が表れています。
5 朝露のきりぎりす
朝のノー 露草に
刈り込められて
ヨイショー ヨイショー
鳴いて上るは ユホー
きりぎりす現代語訳
朝露に濡れた草むらを刈り込まれて、
そこから鳴きながら飛び上がっていくのは、
きりぎりすだ。柴や草を刈る農作業の風景の中に、草むらから飛び出す虫を描いた一節です。
6 柴を刈って、米を取って、嫁をもらう
柴刈れノー 草刈れ
やれ はげめ
ヨイショー ヨイショー
今年や米取ろ ユホー
嫁も娶ろ現代語訳
柴を刈れ、草を刈れ。
さあ、頑張れ。
今年はたくさん米を収穫して、
嫁ももらおう。ここが、おそらく「土佐柴刈唄」を象徴する一節です。
柴刈りは単なる山仕事ではなく、
柴を刈る
↓
田に入れて肥料にする
↓
米が実る
↓
収穫が得られる
↓
家族をつくるという、農村の生活そのものにつながっていました。
7 土佐の柴刈り男
俺がノー 土佐の
柴刈り男
ヨイショー ヨイショー
鎌の光でユホー
山へ行く現代語訳
俺は土佐の柴刈り男。
鎌を光らせて、
山へ柴を刈りに行く。ここでは「柴刈り男」という農山村の労働者としての誇りが前面に出ています。
8 朝星から夜星まで
行きはノー 朝星
帰りは夜星
ヨイショー ヨイショー
昼は利鎌の ユホー
星が飛ぶ現代語訳
山へ行くときには朝の星が見え、
帰るころには夜の星が見える。
昼間はよく切れる鎌を振るい、
まるで火花のように星が飛ぶ。つまり、朝早くから夜まで働くという柴刈りの過酷さを表した歌です。
「利鎌」は、よく切れる鎌、鋭い鎌という意味に読むのが自然です。「星が飛ぶ」は、鎌を振るうときの勢いや、刃に光がきらめく様子を想像させます。
9 土佐はよい国
土佐はノー よい国
南をうけて
ヨイショー ヨイショー
年にお米が ユホー
二度とれる現代語訳
土佐はよい国だ。
南から暖かな日差しを受け、
一年に米が二度とれる。ここでは個人の労働から一転して、土佐という土地そのものへの肯定が歌われます。ただし、「年にお米が二度とれる」は、高須の稲作の実態を文字通り「二期作」と断定するというより、温暖な土佐の農業生産力を称える民謡的表現として読むのが慎重でしょう。
10 豊年への願い
今年やノー 豊年
穂に 穂が咲いて
ヨイショー ヨイショー
道の小草も ユホー
米がなる現代語訳
今年は豊作だ。
稲穂に穂がいっぱい実り、
道端の小さな草にさえ、
米が実るほどの豊かな年になる。最後は、豊作への願いで締めくくられます。



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