花や木が植えられているとき、そこには多くの場合、植えた人の想いや、それぞれの木にまつわる物語があります。日本の農村では古くから女の子が生まれると桐の木を植える風習がありました。とても成長が早く15年〜20年くらいで成木となるので、嫁入りの際に箪笥(タンス)の材料にすると聞くことも多いです。

「女子ノ初生ニ桐の子ヲウフレバ、嫁スル時其装具ノ櫃材トナル」大和本草(貝原益軒著/1709年・宝永7年刊行)

私のいる徳島県最後の村、佐那河内村(さなごうちそん)では、様々な民間薬があり、桐は炭にして、粉を油で練って患部に貼ることで、火傷や切り傷の薬として重宝されていたそうです。

参考:佐那河内村の民間薬調査(徳島生薬学会)

関東で暮らしていた時はあまりみかけませんでしたが、四国に移住してきてから、桐の木は香川県高松市や瀬戸内海の島々でもよくみられ、その度に「女の子が生まれた証かな」とその農山漁村の暮らしぶりを想像しています。薬として使われる風習はこちらでもあるのだろうか。下の写真は男木島でみかけた桐の木で、このあたりはいまはまったく集落がない島の東側ですが、古い航空写真で確認すると畑として斜面が高度利用されていたことがわかるので、ひょっとしたらここにも農家さんがいて、女の子が生まれたのかもしれません。

桐の木は、木材としてもとても優れていて。国産材では最も軽く、湿気を通さず、燃えにくいことからタンスや琴や下駄の材料として使われてきた木材です。五七桐は、日本国政府の家紋になっていることからも、古くから重宝されてきたことが伺えます。箪笥の材料としては、江戸時代の明暦の大火(1657年)の後に、道を塞いだ車箪笥が禁止され、その代わりに軽くて火に強い桐材が箪笥の材料として使われるようになりました。

一本の木にも、様々な物語が潜んでいますね。